実利行者の足跡めぐり

下北山 佐田 うい山の天王

うい山の天王さまの祠  奈良県吉野郡下北山村佐田  2009年4月24日

この祠は以前、佐田と上桑原の境にあるうい山にありました。しかしお年寄りの参拝が困難となり、現在の場所に移築されたそうです。祠には実利行者によって安置された魔利支天木像と、魔利支天供養の木札三枚が納められています。魔利支天木像が安置されている事から、天王さまとも称されています。他にも、集落の別の場所で御神体として崇められていた高さ20cm程の丸石や、玉置神社の木札も納められています。向かって右側の小祠には、瀬戸内海の大三島にある大山祇(おおやまずみ)神社の木札が納められています。大三島の大山祇神社(大山積神社)は山の神として尊崇され、全国の大山積神を祀る総本社です。地域の林業研究倶楽部の有志により、大三島の大山祇神社よりお札を授かり納められています。



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出典:国土地理院ウェブサイト (当該ページのURL) 赤丸、赤い四角、青で表した線、宮之谷の記入は当サイト管理者による

地図上の赤丸は現在の祠の場所を示します、赤い四角は以前に祠があった場所を示しています。青で表した線は、魔利支天供養の木札の裏に書かれている宮之谷です。


魔利支天供養の木札

A・マリ ブッシイ著 『捨身行者 実利の修験道』 角川書店 1977年発行(P85より)

 下北山村佐田のうい山の頂上には、実利によって安置された魔利支天木像が現存している。そのため、このうい山はまた天王さまと称されている。そこに「化け物」が出るためと猪の害が多かったため、実利行者は三日間の魔利支天供養をそこで修行したと伝えられている。うい山の小祠には、魔利支天木像の他に、その供養の木札も見られる。三枚の木札の日付は明治11年11月2日、6日、7日であり、的射応神直流深法二十一座、三十七座、三十七座という供養であった。その目的は、一天静謐、国家安穏、風雨順時、五穀豊熟、悪魔降伏、村中安全であった。それ以来、「化け物」が出なくなったと佐田の人々は伝えている。魔利支天はとくに江戸時代の武士の間に、隠形すなわち忍術の本尊として知られていたが、実利の青年時代御嶽信仰にも本尊とされているから、御嶽教でこの供養法を学んだのかもしれない。



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魔利支天供養の木札(表)



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魔利支天供養の木札(裏)

木札は上部が山形に仕上げられ、上部と比べ下部は若干幅が小さくなっています。高さが765mm・上部の横幅135mm・下部の横幅110mmです。

三枚の木札のうち二枚の裏面には宮ノ谷道場と書かれています。道場には仏道修行の場所という意味もあることから、宮ノ谷を修行の場所としていたと考えられます。或いは、うい山の祠を宮之谷道場と称していた可能性も考えられます。中央の木札裏面下部の不明瞭な文字は「祈念成就」です。

実利行者は二度に渡って回国巡礼を行い、旅日記を残しています。最初は明治11年7月6日から同11年10月13日、二度目は翌年の同12年11月28日から同13年3月7日迄です。この木札に記されている明治11年11月2日という日付は、最初の回国巡礼を陸前小牛田で終えた、同11年10月13日から数えて20日目にあたります。実利行者はうい山の魔利支天供養のため、20日間で下北山村まで戻ったことになりますが、小牛田でなにか情報を得たのでしょうか。ブッシイ氏は『捨身行者 実利の修験道』の中で 「なにかお告げでもあったのではないか」と述べています。二度目の回国巡礼は翌年の明治12年11月28日から、最初の巡礼を終えた小牛田と同じ陸前の石巻から始まっています。うい山の魔利支天供養がなければ、最初の回国巡礼をそのまま続けていたことでしょう。このように陸前小牛田まで続けてきた巡礼を、途中で中断してまで下北山村へ戻ったのは、よほどの事情がありその要請に応じたものと推察します。この行動には、実利行者の精神がよく現れているように思います。

(4/30 2018 改訂)

うい山の天王例祭

奈良県吉野郡下北山村大字佐田  2018年4月22日

例祭は毎年、実利行者の命日に当たる4月21日前後の日曜日に行われます。今年は爽やかな好天に恵まれ、4月22日の日曜日に執り行われました。区長さんの挨拶から始まり、梅花講による御詠歌の合唱の後、参加者全員でお参りします。和気あいあいの雰囲気の中、元気なお年寄りの姿が印象に残りました。祭りの締めくくりには餅蒔きがあり、その後地区の公民館で直来が行われます。この日は浦向の実利行者祭りと重なり、最後まで見届けることができず心残りでした。


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梅花講による御詠歌の合唱


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取材にあたり佐田区長の森岡誠氏には便宜をお図りいただきました、また西岡広和氏からは忘れ去られようとする貴重なお話を伺うことができました。両氏には心より感謝いたします。

















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